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老年内科

高齢化社会が進む中、高齢者に特有な病態・疾病が数々あります。おそらく60歳時には想像もしていなかった体の衰えや、高齢者になり初めて出現する疾病も少なくありません。 一般的に高齢者は65歳以上を指すことが多く、65-74歳までを前期高齢者、75-89歳までを後期高齢者、90歳以上を超高齢者と定義します。
特に75歳以上の方は若年成人の方と異なった特徴を示すことが多い傾向にあります。それゆえ75歳以上が老年医学の範疇に入りますが、老化現象は一夜にしては生じず、徐々に進行します。また、個人差もありますので50代、60代の頃より予防のために受診されている方も非常に多いです。まさに当院の理念である「健康寿命」の延伸とも言えます。

小児科は大人を小さくしただけの医療ではなく、小児科特有の診療があります。
高齢者も同様であり、成人と同様に考えてはならない側面があります。


「乳児」も「小児」も「成人」も「老年」も特有の疾患があります。

ここでは、
フレイル 高齢者てんかん 認知症、MCIを記載します。

フレイル 高齢者てんかん 認知症、MCI

フレイル

フレイルとは老化に伴い、身体の予備能力が低下し、健康障害を起こしやすくなった状態のことです。 単に、今までできていたことができなくなってしまう自信喪失の状況を指しているのではなく、 日本老年医学会が2014年に提唱した概念で、「Frailty(虚弱)」をもとに考案されました。 身体的フレイル(転倒や骨折、肺炎、COPD、動脈硬化など)、精神的フレイル(認知症やうつ症状、高齢者てんかん)、 社会的フレイル(老老介護、独居など)などが複合的に絡んでおり、これら多岐にわたるフレイルを包括的にケアしていく必要があります。
健康と介護状態の移行期的な状態ですが、早期介入による適切な診断と治療、日常の生活習慣の整え、 是正によって健康な状態少しでも長く維持することが可能であり、また、健康に戻ることも可能な状態、つまり可逆的な状態といえます。



フレイルの位置づけと流れ

*併存症:異なる病気を併発している状態のこと。
高齢に伴い、心臓疾患、糖尿病、高血圧等、いろいろな病気との併発が考えられます。



*ロコモ:ロコモティブシンドロームの略称。
骨や関節、筋肉など運動器の衰えが原因で、歩行や立ち座りなどの日常生活に支障を来している状態のことをいいます。


*サルコペニア:加齢に伴って筋肉量が進行性かつ全身性に減少する病態。
筋肉量の低下とともに筋力または歩行速度の低下を伴った病態として認識されるようになっています。 ロコモに含まれる概念でもあり、フレイルに影響を及ぼす病態の一つです。


フレイルの大きな原因の一つが筋肉の衰えです。 タンパク質を含んだ食事、定期的な運動によって筋力が衰える現象(サルコペニア)の進行を遅らせることが重要です。 日常生活におけるちょっとした心と身体の衰え(プレ・フレイル)に早く気がつくことが大切です。 早い段階で行動することが健康寿命を延ばし、その効果も大きいと考えられています。

健康寿命(フレイル予防)に大切な三つの柱
フレイル予防には重要なのは「運動」、「栄養(食・口腔機能)」、「社会参加」です。



最近の研究では「社会参加」の頻度低下がフレイルの入り口になりやすいことが言われています。 趣味や就労、友人や知人との交流など、地域社会に関わる活動に参加することが効果的です。 閉じこもりがちにならないよう、生活習慣を見直してみましょう。

高齢者てんかん

ここで言う高齢者はWHOの基準では65歳以上を指します。そのため65歳以上に発生し、特徴的な発作を呈するてんかんを高齢者てんかんと呼びます。なぜこの概念が大切かと申しますと、「認知症」や「うつ病」と誤診されてしまうケースが多いからです。つまり高齢者てんかんは典型的な全身痙攣発作とは発作型がかけ離れており、むしろ記憶の低下や易怒性、攻撃性などを伴い認知症やうつ病といった症状に似ております。そのため、治療法が全く異なるこれらの疾患と高齢者てんかんを鑑別する必要があるのです。
高齢者の初めてのてんかん発作の場合は画像診断が重要となります。脳血管障害、アルツハイマー型認知症、脳腫瘍などが隠れているケースも多く、MRI検査が最も適切な検査とされています。また通常の脳波検査では異常を見つけにくいと言う特徴もあります。
治療法は抗てんかん薬ですが、一般成人の服用量よりも低容量での効果が期待できる場合が多い特徴があります。また内服による治療効果が持続するとも言われております。しかし、高齢の方は既に持病による多くの薬を服用していることも日常的であり、相互作用や副作用に注意しながら内服を続ける必要性から、内服だけを繰り返し処方されるのではなく専門性の高い医療機関への継続通院が必要となります。

認知症

物忘れ=認知症ではありません。物忘れは生理的な老化現象であり、病気ではありません。人の名前や物の名前を忘れてしまうと訴え外来受診される事が多いです。一方で認知症は何かの病気によって脳の神経細胞かが壊れるために起こる症状や状態をいいます。そして認知症の進行により、だんだんと理解する力や判断する力が無くなって、社会生活や日常生活に支障が出てくるようになります。
本邦の65歳以上の認知症有病率は8%以上です。認知症は増加傾向にあり特にAlzheimer病が増加しています。
認知症の分類は後述するように複数ありますが、本邦ではAlzheimer病が最も多く、次いで血管性認知症、Lewy小体型認知症と続きます。
認知症は記憶障害が主の症状ですが、それ以外にも周辺症状といって幻覚、妄想などの心理症状や脱抑制など行動異常を伴います。

認知症の代表的な「アルツハイマー型認知症」「レビー小体型認知症」「脳血管性認知症」「前頭側頭葉型認知症」を以下に表をまとめました。詳細は個々の疾患で記載しています。
  アルツハイマー型認知症 レビー小体型認知症 血管性認知症 前頭側頭葉型認知症
脳の変化 アミロイド蛋白やタウ蛋白が、海馬を中心に脳の広範囲に出現する。脳の神経細胞が死滅していく レビー小体という蛋白により神経細胞が死滅してしまう 脳梗塞・脳出血などが原因で、脳の血管循環が悪くなり、脳の一部が壊死してしまう タウ蛋白あるいはTDP-43が関与している説があるが、未だ原因不明
画像初見 海馬を中心に脳の萎縮がみられる はっきりした脳の萎縮はみられないことが多い 脳が壊死したところが確認できる。脳深部白質病変を認める 前頭葉と側頭葉に限局した萎縮を認める。どう部位の血流低下も認める
男女比 女性に多い 男性がやや多い 男性に多い 男女差は殆どなく若年性
初期の症状 もの忘れ 幻視、妄想、うつ症状パーキンソン症状 もの忘れ 人格障害、行動変容、言語の障害
特徴的な症状 認知機能障害、もの盗られ妄想、徘徊取り繕いなど 認知機能障害(注意力)、幻視、錯視、妄想、うつ症状、パーキンソン症状、睡眠時の異常言動、自律 まだらな認知機能障害、手足の痺れ、麻痺、感情のコントロールがうまくいかない 万引きのような軽犯罪、身だしなみに無頓着、脱抑制、暴力
経過 緩徐な経過。記憶障害から始まり、広範な障害へ徐々に進行する 調子の良い時と悪い時を繰り返しながら進行する。時に急速に進行することもある 原因となる疾患によって異なるが、比較的急に発症し階段的に進行していくことが多い 意思決定能力が大きく損なわれる。

Alzheimer病(AD)

アルツハイマー型認知症は65歳以上の6人に1人はかかっているという最も多い認知症の代表です。ベータタンパクやタウタンパクという異常なタンパク質が脳にたまって神経細胞が死んでしまい、脳が萎縮してしまいます。記憶の中枢を担っている海馬という部分から萎縮が始まり、だんだんと脳全体へ広がります。

認知機能障害
最も代表的な症状は近時記憶障害です。
近時記憶障害とは少し前(3-4分など数分~数10分程度)の記憶を持続できないという障害です。特に「約束の忘れ」、「物の置き場所が分からなくなる」、「同じことを初めて話すかのように繰り返し話す」などの症状が特徴的です。逆に遠隔記憶といって発病前の個人の生活史や歴史的事件などは覚えていることが多いです。
進行すると計算や書字ができなくなったり、視空間障害により家の中やよく知った場所でも迷うようになります。言語面では言葉を変換できなくなり「あれ」「それ」と言った指示語が増えてくるのが特徴です。
言葉はスムーズに話す(流暢性は保たれる)が、錯語(作り話し)が目立つようになり、進行すると知的機能が全般的に低下し、周囲に対する認識ができなくなり、言葉は錯語だけとなり会話が全く通じなくなってしまい、最終的には無言になります。

精神症状
70-80%の人に初期より自発性低下、無関心さが目立ちます。次いで多いのは妄想(特に物盗られ妄想)、うつ症状です。40-50%程度に認めます。
中等度以上になると徘徊や興奮、易刺激性が目立つようになり多動で落ち着きがなく、引き出しを開けたり閉めたりするような繰り返し行動が見られます。

局所神経症状
一部の家族性のもの以外ではほとんど神経症状(けいれん発作やピクつきなど)は見られません。

治療法
現行では4種の治療薬を複合して用います。ドネペジル「アリセプト」、リバスチグミン「イクセロンパッチ」、ガランタミン「レミニール」、メマンチン「メマリー」用います。アリセプト、イクセロンパッチ、レミニールは比較的軽症~中症用いいます。メマリーは中症~重症例に用います。これらはアルツハイマー型認知症を改善させるというよりは進行を抑制することが主眼であり、またこれらの薬剤は類似性があるため、別の薬へと変更しても人によっては効果が乏しいことがあります。

レビー小体型認知症

脳の神経細胞の中に「レビー小体」と呼ばれる異常なタンパク質の塊がみられます。このレビー小体が大脳に広く現れると、その結果認知症になります。MRIなどの画像検査では、はっきりとした脳の萎縮は認めないことも特徴です。高齢の方、75~80歳くらいの方に多く認められます。基本的に遺伝することはありません。
初期には記憶障害は目立たない事も多く、なんとなく注意力が無くなる、物が歪んで見えるなどの症状が現れます。日内変動が大きく、1日の中でも頭がはっきりしている時間帯と、ボーとして極端に理解する能力が低下している時間帯があり、それらが入れ替わります。

「幻視」といって実際には見えないものが本人にははっきりと見える症状も特徴的です。「知らない人が部屋に座っている」「ネズミが壁を這いまわっている」など発言も具体的です。また「錯視」といってタオルの花柄が人の顔に見えたり、廊下や道路が波打って見えるなどと訴えることがあります。
睡眠時の異常行為として寝ている時に大声で叫んだり、奇声をあげたりもします。
身体面の症状として「パーキンソン症状」を呈することがあります。動作が遅くなったり、無表情、筋肉の強張り、前傾姿勢での小刻み歩行などが特徴的です。

また、自律神経失調症の夜な発汗、寝汗、頻尿、だるさ、めまいなどを伴うこともあります。
症状が進行すると嚥下能力が低下し、唾液や食べ物が気管に入り肺炎を起こしやすくなってしまいます。
このようのレビー小体型認知症には①認知機能の変動、②繰り返し出現する幻視、③パーキンソン症状といった3徴と呼ばれる特徴的は症状があります。
完全に治したり進行を止めたりする治療法は確立されておりませんが、認知機能の低下や変動、幻視に対してアルツハイマー病の治療薬が有効な場合があります。パーキンソン症状に対してはパーキンソン病の治療薬が有効な場合があります。

血管性認知症

認知症がある

脳血管障害(脳梗塞、脳出血、深部白質病変など)がある

両者に因果関係がある

血管性認知症は簡単に言うと上記が成り立つ場合です。60歳~70歳台の男性に多い傾向があります。脳梗塞や脳出血により一気に悪化することが多く、繰り返すごとに階段上に悪化していきます。小さな血管が損傷された場合は、階段状でもやや緩徐に進行することがあります。
また、大脳白質病変という慢性の虚血性変化を認める若年者が増えています。頭部MRIなどで、「白いポツポツがたくさん有った」と言われるのがこの脳深部白質病変です。一般的には無症状ですが、程度が強くなると認知機能障害の原因となるため注意が必要です。
動脈硬化の進行を抑えることが重要であり、高血圧や糖尿病、脂質異常症の是正と禁煙や適度な運動が必要となります。大脳白質病変がある方で症状が無い場合には、脳ドックなど定期的な脳MRI検査をお勧め致します。

前頭側頭型認知症

原因がはっきりと分かっておらず、脳の中の前頭葉と側頭葉の神経細胞が少しずつ壊れていくことによって、多彩な症状を呈する認知症です。他人への配慮ができなかったり、周りの状況にかかわらず自分が思った行動をしてしまうといった、性格の変化や行動異常が前面に出るため、認知症を疑いにくい疾患です。店のものを断りなく持ってきたり、交通ルールを無視して赤信号を通過してしまうなどの行動がみられます。また、こだわりが強くなり毎日同じ時間に決まったことをするといった行動も認められます。
家族が注意すると興奮したり暴力的になることも多いです。若年で発症することが多く、ほとんどの方が70歳頃までに発症します。遺伝性は一部を除き認めないという説が有力です。
残念ながら確立された治療法は認めておらず、社会生活上で迷惑となるような行動が強く現れる場合には、生活環境を変えたり、短期入院などを行うことにより、その行動を別の、より許容できる行動に変えるようにしていきます。


認知症予備軍

MCI(軽度認知機能障害)を見逃さないことが重要です!

認知症はいきなり発症するわけではなく、一歩手前のグレーゾーンがあります。その段階のことをMCI(軽度認知障害)といい、認知症予備軍です。65歳の高齢者の4人に1人は軽度認知障害MCIと言われています。認知症の「一歩手前」の状況で、物忘れのような症状が出るものの症状はまだ軽く、認知症では無いため自立した生活ができると言われています。多くの認知症は、現在の治療では完治させることはできませんが、軽度認知障害(MCI)を正しく知り、軽度認知障害(MCI)のうちに早期発見に務めることが予防において何より需要です。
MCI(軽度認知障害)の定義

記憶障害の訴えが家族または本人から認められる
客観的に1つ以上の認知機能(記憶や見当識)が認められる
日常生活動作は正常
認知症ではない
MCI(軽度認知障害)の具体例

・同じ会話を繰り返す。同じことを何度も言う
・同じ質問を何度も聞く
・物の置忘れやしまい忘れた増える
・外出時の服装に無頓着となる
・道に迷ってしまう
・最近の旅行のことは覚えていても、「いつ」「どこ」と踏み込んだ内容が思い出せない
・物事を順序立てて行えない。例えば炊事で焦がしてしまうことも目立つ
・意欲低下。新しいことを覚えいようとしない。
運動療法
適度な運動は全身の血流を改善し脳の活性化へとつながります。有酸素運動を多く取り入れましょう。軽く汗をかく程度の運動が最適です。引き算やしりとりなど頭を使いながら運動することも有効であると言われており、MCI(軽度認知障害)の方の維持、向上に役立ち、悪化を防ぎます。
食事療法
バランスの良い食事が重要です。魚を多く摂取することも効果的です。野菜や果物を多く取ることも重要です。塩分過多は高血圧症の原因になるため注意しましょう。
睡眠を十分に取りましょう
日中のだらだらとした睡眠は認知症の方々に共通する習慣です。テレビを見ながら寝てしまう、夜に寝られなくなり朝起きるのが遅くなるといった悪循環となります。日中は積極的に活動し夜間にしっかりと睡眠を取りましょう。
人とのコミュニケーション
1人で閉じこもらず、いろんな人と会話しましょう。ピクニックやカラオケなどの気分転換も需要です。声を出す習慣を作りましょう。また、他人と接することで人に対して気遣うことや、自分の存在意義を見出すこともできます。

MCIスクリーニング検査

アルツハイマー型認知症は上述のように(アルツハイマー型認知症の項参照)、アミロイドベータペプチドという老廃物が脳に蓄積し、神経細胞を破壊することにより発症します。MCIスクリーニング検査はアルツハイマー型認知症の初期段階であるMCI(軽度認知障害)のリスクをはかる血液検査です。

検査の目的は、健康診断と同じようにご自身の変化を早く発見し、定期的に検査を受ける事により予防を行い、進行を遅らせることです。
検査は至って簡単です。少量の採血を行うのみです。採取した採血を専門の分析機関へと提出します。2-3週間後に検査結果は当クリニックより患者様へお渡しいたします。

(検査結果の例)
MCI検査の詳細は下記URLからもご覧いただけます。
https://www.nk-m.co.jp/project/mci_screening/

検査費用 25,000円(税込)
※本検査は医療機関での採血が必要です。
※健康保険が適用外ですので、人間ドックと同様に自費の検査となります。

認知症のようで認知症では無い他の疾患

認知症に似た症状を呈する疾患はたくさんあり鑑別することが非常に大切です。言い換えるとこれらを治療することにより認知機能障害も改善する可能性が高い疾患です。以下が代表的な鑑別すべき他疾患です。

認知症と鑑別するべき他疾患

特発性正常圧水頭症
慢性硬膜下血腫
甲状腺機能低下症
脳炎などの神経感染症
うつ病
せん妄
ビタミン欠乏症
特発性正常圧水頭症
認知症かもしれないという受診の中に、「正常圧水頭症」であることが多くあります。歩行障害・尿失禁・認知機能低下を三徴とします。画像(CTないしはMRI)検査にて脳室拡大や大脳円蓋部の狭小化など特徴的な所見を有するため診断がつきます。手術により改善する可能性があります。
慢性硬膜下血腫
頭部外傷後(階段に頭をぶつけた程度の軽いものも含む)1−2ヶ月くらい経過して、脳と頭蓋骨の間(正確には脳と硬膜の間)に赤ワイン様のどす黒い血腫がゆっくりと溜まりだし、脳を圧迫する病気です。もともと脳の萎縮が強い高齢者に多く認めますが、抗血栓薬(血液サラサラのお薬)を内服している患者さんにも発生しやすいです。認知機能の低下(スマートホンが打てない、記憶が落ちるなど)や軽い麻痺(茶碗を落とす、靴が履きにくいなど)を呈し気づかれることが多い疾患です。頭部C T検査で容易に診断がつきます。手術により血腫を取り除く必要がありますが、血腫が取り除かれると圧迫された脳が戻るため、神経症状も改善します。
甲状腺機能低下症
甲状腺機能低下症はミオパチー(筋肉異常)、ニューロパチー(神経異常)、小脳失調、認知機能低下など多彩な症状を呈します。甲状腺はエネルギーの源のホルモンを分泌させる組織であり、この甲状腺機能が低下することで全体的に沈む方向である無気力・動作緩慢・易疲労感・嗜眠・記憶力の低下などアルツハイマー型認知症に似た症状を呈します。甲状腺機能低下症の患者さんの有病率は高いため、認知機能障害を疑った場合には甲状腺機能のスクリーニングも重要と考えています。
神経感染症
亜急性~慢性に進行する神経感染症(脳炎・髄膜炎)では、見当識障害や高次脳機能障害が主症状となり、一見して認知症のような症状を認めることがあります。認知症と判断して初期治療が遅れることが予後の悪化につながることにもなります。脳脊髄液検査や脳MRI検査を行い、早期治療が必要になります。
うつ病
高齢化社会に伴い高齢者のうつ病は年々増えてきています。「歳をとれば誰しもがうつっぽくなる」と言われることがありますが、一般的な「老化現象」と「うつ病」は全く異なるものです。しかし高齢者のうつ病は典型的なうつ病の診断基準には当てはまらないことが多く(典型例は1/3-1/4程度)、症状の一部が特に強く現れたり、逆に一部が弱くなったりします。心気的な訴えが多く、記憶力の衰えに対する訴え、例えば「物覚えが悪くなった」 物忘れが増えた」などがうつ病を示唆する重要な症状である可能性があります。抑うつ気分と記憶に関する主観的な訴えとは強く関連しており、特に60歳代から70歳前半の比較的「若い高齢者」で、その傾向が強いです。認知症外来を受診する患者の5人に1人はうつ病性障害であると言われています。
せん妄
術後や薬剤の影響によって急性に出現する意識障害。一過性であることが大きな特徴ですが、せん妄が発言している時には場所や時間などの認識も混乱し見当識障害や幻覚を伴うため認知症と混乱されます。特定される原因があること共に、症状が一過性で意識障害があること、日内変動があることが認知症と異なります。
ビタミン欠乏症
加齢に伴い食生活の変化や摂取量の減少、また吸収や代謝の能力の低下により種々の栄養障害が生じます。特にビタミンB1、B12、葉酸の欠乏は認知機能障害の原因となります。これらの欠乏による症状は認知機能障害だけではなくその他の神経症状も伴うのが一般的ですが、高齢者では認知機能障害が前面に出てしまい、非典型的な症状を呈するため診断の鑑別にあがります。
本邦の65歳以上の認知症有病率は8%以上です。認知症は増加傾向にあり特にAlzheimer病が増加しています。
認知症の分類は後述するように複数ありますが、本邦ではAlzheimer病が最も多く、次いで血管性認知症、Lewy小体型認知症と続きます。
認知症は記憶障害が主の症状ですが、それ以外にも周辺症状といって幻覚、妄想などの心理症状や脱抑制など行動異常を伴います。